電脳ヨーグルト

ネガティブからポジティブへ

【死の克服】知らない・考えないほうが幸せに生きられることもある

f:id:at25250410:20200201013241p:plain


 小学校2年生当時、クラスで一番勉強ができた女の子から「50億年後には地球は太陽に飲み込まれて無くなる」という話を聞いたとき、自分はどうしようもない絶望感に打ちのめされた。それまでに自分がアニメや本などから想像していた、生まれ変わりや天国地獄といった概念が全否定された気がしたからだと思う。

 そもそも太陽に飲み込まれる前に気候変動や自然災害で生物自体絶滅しているのだが、当時はそんなこと知る由もなく「もしも不老不死が実現してずっと生きられるようになっても、地球が太陽に飲み込まれて死んでしまうのか・・・その太陽もいずれ無くなって・・・」と子供ながら永遠が手に届かないものだと悟った。

 

 人間に限らず生物は皆できるだけ長く生きたいという情動がある。その最たるものが不老不死であろう。秦の始皇帝のように本気で永遠の命を求めた人もいるが、多くの人は輪廻や転生など死後の世界を信じることでその情動を抑え込んでいた。このような人間の死生観というものは時代とともに変わっていき、日本の死生観に関しては大まかに3つほどに分けられると考えている。

 

1.古代の死生観

古代の死生観では、不老不死への代替として輪廻、転生など死後の生まれ変わりを信じていた。

◆最澄 (767~822)--天台宗開祖

夏4月、もろもろの弟子たちに告げて言われた、「わたしの命はもう長くはあるまい。もしもわたしが死んだあとは、みんな喪服を着てはならない。また山中の同法(同門の弟子)は、仏のさだめた戒律によって、酒を飲んではいけない。
ただし、わたしもまた、いくたびもこの国に生れかわって、三学(戒・定・慧)を学習し、一乗(「法華経」の教え)を弘めよう

『叡山大師伝』

 

2.中世から近世の死生観

 中世から近世の死生観では、子や孫に自分自身を投影し、一族が繁栄し、代々続いていくことで不老不死への情動を抑え込んでいた。

◆伊藤仁斎 (1627~1705)--儒者

「天地の道は、生有って死無く、実有って散無し。死は即ち生の終り、散は即ち実の尽くるなり。天地の道、生に一なるが故なり。父祖身投すといへども、しかれどもその精神は、すなはちこれを子孫に伝へ、子孫又これをその子孫に伝へ、生生断えず、無窮に至るときは、すなはちこれを死せずといいて可なり」

『語孟字義』

 

 

3.現代の死生観

現代の死生観は、先に記述したように科学的に永遠というものが否定されてしまったため、健康に長生きすることで不老不死への情動に対処している。

◆野坂昭如 (1930~2015)--小説家

人間は年中死を意識している、そして、意識しながら、上手に死ぬことはいっさい考えず、ただもう不老長寿をのみねがい、健康こそが人間の幸せと信じこんだふりをする、あまりに意識し過ぎる怯えが強すぎて、具体的に考えない。

『死について』

 

 

ここでふと疑問が浮かんできた。

 

上記3つの死生観の中で、現代の死生観が対処法として最も弱いように思えるのに、なぜ現代の人々は毎日死への恐怖に打ちひしがれ絶望して生きていないのか?ということである。

 

その理由として挙げられるのは「解離」だと個人的に考えている。

 

解離は、感覚刺激が強すぎて処理できないときに自動的に生じる感覚遮断(感覚の切り離し)です。脳に備わる「防衛機制」と呼ばれる保護システムの一つです。いわば脳に備わるブレーカーのようなもので、過剰な刺激に圧倒されないようシャットダウンをかけることで脳を保護します。

 

 中世や近世などでは、人間の「死」というものは今よりもずっと身近で、家族の誰かが苦しみながら死んだり、仲の良かったご近所さんが賊に殺されたり、道端に死体が転がっていたりなど、「死」というものを身体全体で感じていた。しかし現代では我々が実際に「死」に触れる機会は葬儀の時ぐらいで、テレビや漫画やドラマなどの中で目にする機会の方が圧倒的に多い。我々現代人は画面を通して、脳で「死」というものを認識していても、身体全体で「死」を感じることは無いため、「死」をなにか遠い世界のファンタスティックなものとして意識してしまう人が多いのだ。

 

 永遠という希望が破綻し救いが無くなった現代において、人の死を全身で感じるということは生き地獄に等しい、その点で医師や看護師、葬儀業者などの心労は想像に絶する。大多数の人々は、知らない・考えないといったように、解離により死への感覚を麻痺させることで日々幸せに過ごしているのだろう。

 

 

 

引用

日本人の死生観

http://web.sanin.jp/p/sousen/1/3/1/2/9/

【Q&A】実はあなたにも身近な「解離」とは何なのかを知るまとめ・参考資料集

https://yumemana.com/labs/dissociation/#Q1